• UPDATE

かかりつけ薬剤師とは?メリットやその役割を詳しく解説します

外部ページURL

かかりつけ薬剤師とは

かかりつけ薬剤師制度が、2016年4月の診療報酬改定からスタートしました。その背景には、超高齢化社会への危機感があります。例えば2065年には、日本の全人口の約25%が75歳以上の後期高齢者になります。つまり複数の疾患を抱えたり、病院への通院さえ困難になる患者さんが今以上に増えます。そういった社会構造に対処するため、国は地域包括ケアシステムを推進しています。その中の重要な機能の一つとして、かかりつけ薬剤師があります。

かかりつけ薬剤師は、患者さんの服薬情報を一元的かつ継続的に把握します。例えば、お薬を渡した後の推移を見守り、医師へのフィードバックや残薬確認を行います。また健康相談や他の医療機関の受診を勧めることもあります。言い換えれば、患者さんにとって「専任のお薬の窓口的存在」になるわけです。これは患者さんにとっては、自分の健康や服薬状況をよくわかってくれている心強い存在といえるでしょう。

一方、かかりつけ薬剤師に求められるものは何でしょうか。例えば患者さんの薬歴はもちろん、体質や体調に合わせた調剤が重要です。また場合によっては、医師との連携も必要になります。つまり、患者さんごとにカスタイマイズした業務が求められます。

本記事では、今後重要になるかかりつけ薬剤師について詳しく解説します。

1. かかりつけ薬剤師について

かかりつけ薬剤師

1-1. かかりつけ薬剤師とは

かかりつけ薬剤師は、患者さんのお薬や健康などの様々な相談の窓口的存在です。お薬や健康、介護等に関する専門性の高い知識と経験を持ち、適切なアドバイスを提供します。一番の大きな特徴は、患者さんの過去の病歴や服用歴を把握し、精度の高い対応ができることです。また薬局の営業時間外でも相談でき、地域の医療機関とも連携します。今後は、患者さんの医療に関する窓口として、その重要性が高まることが予想されます。

1-2. 専任の薬剤師が窓口になる効果とは

例えば、東京都健康長寿医療センターの調査によると、高齢者の60%が3疾患以上の慢性疾患を併発しているという実態があります。その代表例は、「糖尿病」「高血圧」「骨粗しょう症状」「脳梗塞」です。これらの疾患は、継続的な治療が求められるケースが多いのが特徴です。そのため複数の薬剤師が担当した場合、最適なアドバイスができない可能性があります。高齢者に多い複数かつ長期疾患の解決策として、かかりつけ薬剤師の機能は重要といえます。

2. かかりつけ薬局とは

2-1. 一人の患者さんに対して専属の薬剤師が担当する

かかりつけ薬局は、一人の患者さんに対して専属の薬剤師が担当します。患者さんにとっては、継続的に自分自身のお薬情報や、健康状態を理解してくれる薬剤師がいることで、大きな安心感につながります。

2-2. 24時間対応・在宅対応

かかりつけ薬局は、24時間体制で患者さんに対応します。例えば、薬局が閉まっている夜間や休日も対応します。そのため地域包括ケアシステムを支える拠点としても、かかりつけ薬局が果たす機能が期待されています。

2-3. 他の医療機関との連携

かかりつけ薬局は、患者さんの必要に応じて、他の医療機関と連携を行います。具体的には、必要に応じて処方した医師に問い合わせたり、服用後の反応を医療機関にフィードバックしたりします。また患者さんの状況によっては、他の医療機関の受診を勧めることもあります。

3. かかりつけ薬剤師の条件とは

かかりつけ薬剤師の条件

3-1. 保険薬剤師として3年以上薬局勤務経験がある

かかりつけ薬剤師になるには、保険薬剤師として3年以上の薬局勤務経験が必要です。保険薬剤師とは、保険調剤薬局で働く薬剤師のことです。薬剤師の国家試験に合格後、地方厚生局に登録申請すれば、誰でも保険薬剤師になることが可能です。

また保険調剤薬局とは、厚生労働省から保険指定を受けている薬局のことです。主な業務は、保険診療を行う病院の保険医が発行する処方箋にもとづく保険調剤です。つまり保険薬剤師は、「保険が適用される薬を調剤する薬剤師」といえます。

3-2. 同じ薬局に週32時間以上勤務している

かかりつけ薬剤師の条件には、一つの薬局に週32時間以上勤務しているというものがあります。また既にかかりつけ薬剤師がいる薬局の場合、育児等で勤務時間が短くなっても、週24時間以上かつ週4日以上の勤務でかかりつけ薬剤師とみなされます。

3-3. 該当する薬局で1年以上勤務している

かかりつけ薬剤師の条件として、該当する薬局に1年以上勤務というものがあります。以前は、該当する薬局に6ヶ月以上の勤務という規定でした。しかし地域包括ケアシステムにおいて顔が見える関係を築くのは期間が短いという理由で、1年以上に改定されました。

3-4. 認定薬剤師を取得している

かかりつけ薬剤師は、その職務上、薬物療法に関する専門的な知見を持っている必要があります。そのため、薬剤師認定制度認証機構認定薬剤師制度等の認定薬剤師の取得が必要です。

4. かかりつけ薬剤師の業務内容

かかりつけ薬剤師 業務内容

4-1. 患者さんの服薬管理をする

患者さんは、処方薬や要指導医薬品、一般用医薬品、サプリメント等を服用しています。そのため、中には薬の相互作用による想定外の副作用が発生することがあります。そんなトラブルを防ぐには、過去の病歴や薬の服用歴を熟知した上での対応が必要です。

具体的には、患者さんが服用するお薬類を一元的に管理します。また継続的に把握し、その内容については薬剤服用歴(薬歴)に記入します。

薬剤服用歴とは、薬剤師が処方を監査し、患者の状況を評価後、医薬品の調整や提供薬剤情報を記した記録です。これは、次回の調剤や効果、副作用を把握するための重要な資料になります。薬剤服用歴は、患者さんの薬物治療にいかに役立てるかが重要です。

調剤報酬算定上での薬剤服用歴への記載事項』には、多くの項目があります。例えば、患者の基礎情報、アレルギー歴や副作用歴等を含む体質、既往歴、合併症及び他科受診において加療中の疾患などです。また併用薬や飲食物、服薬状況、体調の変化や、家族からの相談事項もあります。

4-2. 患者さんからの相談に対応する

かかりつけ薬剤師は、患者さんからの相談に24時間対応できる体制を作る必要があります。例えば、勤務時間や薬局の営業時間外の連絡先を患者さんに伝えておく必要があります。また他の薬剤師が担当する場合は、その連絡先を伝えておく必要があります。

では、かかりつけ薬剤師にはどんな相談がされているのでしょうか。その相談内容はご自身に限らず、ご家族や身近な方の悩みも含まれます。その一部を、以下にご紹介します。

かかりつけ薬剤師への相談例
① 自分に合う市販薬を教えて欲しい
② 今服用している薬が効いていない気がする
③ 今服用している薬をジェネリック医薬品に変えたい
④ 他の薬局で処方された薬との飲み合わせが悪い気がする
⑤ 今の病気に合う健康食品やサプリメントを教えて欲しい
⑥ 子どもの熱が下がらず、体に湿疹が出ている
⑦ 両親と一緒に住んでいるが、最近物忘れが激しく、認知症かも知れない

5. がんに対するかかりつけ薬剤師の役割

日本人の死因の上位を占めるのが、「がん」「心疾患」「脳血管疾患」です。この三大疾病に、かかりつけ薬剤師はどう対処すればいいのでしょうか。ここではがんに対するポイントを解説します。

5-1. がん患者への服薬指導

がんは非常に身近な疾患です。なぜなら、日本人の2人に1人ががんと診断されるという現状があるからです。がんと告知をされると、多くの患者さんは副作用や将来への不安に苛まれます。そうした気持ちに寄り添いながら、安心で安全ながんの薬物治療法を行う重要性が増しています。そしてそのためのかかりつけ薬剤師の存在がとても重要です。

5-2. がん薬物療法の様々な取り組み

がんの治療には、主に「手術」「放射線療法」「薬物療法」の3種類があります。がんの薬物療法で使われている薬は、「細胞障害性抗がん薬」「分子標的薬」「内分泌療法薬(ホルモン療法薬)」「免疫チェックポイント阻害薬」などがあります。それぞれの特徴を以下に記します。

◇細胞障害性抗がん薬
身体を作っている細胞に、直接または間接的に作用し、がんを攻撃する抗がん薬です。ただし正常な細胞も攻撃するので、副作用が出やすいという特徴があります。

◇分子標的薬
がん細胞だけに作用する抗がん薬です。がん細胞の発生や増殖に関わる様々な分子をターゲットにした分子標的薬があります。副作用が表れにくく、近年は臨床でも使用されています。種類としては、「EGFR阻害薬」「ALK阻害薬」「HER2阻害薬」「血管新生阻害薬」「mTOR阻害薬」「膜状分化抗原標的薬」などがあります。

◇ホルモン療法薬(内分泌療法薬)
エストロゲンという女性をホルモンを減らしたり、乳がん細胞内のエストロゲン受容体とエストロゲンの結合を防ぎ、がん細胞の増殖を防ぎます。

◇免疫チェックポイント阻害薬
免疫ががん細胞を攻撃する力を維持する薬です。具体的には、がん細胞がリンパ球などの免疫細胞の攻撃を逃れるメカニズムを解除します。

5-3. がん薬物療法の副作用マネジメント

2023年進行胃がんに対するゾルベツキシマブ、大腸がんのフルキンチニブ、胆管がんのタスルグラチニブなどの新薬が承認されました。その一方で、副作用マネジメントはより複雑になってきています。適切に対処するためには、「専門知識」「臨床経験」「チーム医療連携」が必要不可欠です。

そのためには、患者さんに負担なく、治療を長く継続することが大切です。同時に「治療開始前の前投薬」「前処方の工夫」「副作用発見時期」「対処法」「減量・休薬・再開の判断」といったポイントの共有が対処力の向上につながります。

6. かかりつけ薬剤師のアンケート調査は

かかりつけ薬剤師の満足度

6-1. 患者さんの満足度

実際のかかりつけ薬剤師の患者さんにとっての満足度は、どうなっているのでしょうか。厚生労働省発表の『平成30年度のかかりつけ薬剤師・薬局に関する調査の報告書』という資料があります。

例えば「自身に対応する決まった薬剤師の業務に対する満足度」は、「大変満足している」という回答が79.5%あります。また「やや満足している」が17.7%あり、患者さんにとって高い評価を得ていることがわかります。

6-2. かかりつけ薬剤師の認知度

同アンケートでは、「かかりつけ薬剤師の認知度」についても調査しています。例えば「良く知っている(内容を理解している)」という回答が36.2%で、「少し知っている(聞いたことがある)」が40.4%、「全く知らない」が17.3%という数字です。

かかりつけ薬剤師の認知度は、今後更に向上させる必要はあると思われます。

6-3. 患者さんの一元化情報の種類について

同アンケートでの患者さん情報の一元的な把握の範囲については、かなり参考になります。以下、ご紹介します。

6-3-1. 患者さんの家族構成、家庭環境

患者さんの家族構成、家庭環境
① 生活環境の把握
② 同居家族の有無
③ 高齢で認知症患者が多く、独居など家族構成や住まい状況についても、把握するように取り組んでいる
④ 患者の性格、家庭環境、家族の病歴
⑤ 患者さんが自ら薬剤を管理していない場合、家族構成含め、薬剤の管理方法を把握するように取り組んでいる
⑥ 患者さんが高齢の場合、家族の連絡先
⑦ 悩みを聞く
⑧ 家族の背景やキーパーソン、運動
⑨ 患者の食生活、家族の職業、趣味、近所付き合いなど

6-3-2. 患者さんの健康状態、生活習慣

また、患者さんの健康状態や生活習慣については、以下の項目があります。

患者さんの健康状態、生活習慣
① 処方箋発行医療機関の検査結果
② アレルギーなど
③ 血圧や、コレストロール値、HbA1Cなどの検査値
④ 目標、心配事の把握
⑤ バイタル、検査値、生活スタイル、自立度
⑥ 健康状態のチェック
⑦ 既往歴、アレルギー副作用など
⑧ フレイルに繋がる検査結果や、体調の確認
⑨ 血液検査結果の把握
⑩ 日常生活での体の変化や困りごとなど。食欲、体重など体調管理に関すること。
⑪ 病院や健診の血液検査の結果を、患者の許可を得て確認させてもらっている
⑫ 禁忌薬、アレルギーなど注意している
⑬ 患者の精神状態の安定度
⑭ 検査値や診察時の明細書で、診療内容を知る

6-3-3. 患者さんの医療、介護に関すること

また、患者さんの医療や介護については、以下の項目があります。

患者さんの医療、介護に関すること
① 担当医(患者によっては、介護支援専門員も含む)
② 病歴
③ 介護環境、嚥下機能
④ デイサービスなどの利用、介護支援専門員の存在など
⑤ 介護保険利用状況並びに要介護度及びその期間
⑥ デイサービスや、ショートステイなどに行っているか
⑦ 患者の要介護度、ケアプランの内容(デイサービスの曜日等)
⑧ 介護サービスを受けているか、介護認定を受けているかどうか

6-3-4. 患者の服薬に関すること(残薬、副作用歴、残薬管理方法等)

また、患者さんの服薬に関することについては、以下の項目があります。

患者さんの服薬に関すること
① 患者の副作用歴を把握するように取り組んでいる
② 患者のジェネリック変更の可否など
③ 実際に薬を管理しているのはだれかを、把握するよう努めている
④ お薬手帳を一冊にまとめる
⑤ お薬手帳に記載されている医薬品について把握する
⑥ 電子薬歴で併用薬を必ず入力する
⑦ 受診日、残薬、服用の調節方法など
⑧ 医薬品に関する全ての相談を受ける。疾患他何でも
⑨ 必要に応じて、別々の医療機関の薬をまとめて一包化したりする
⑩ 手帳の推奨、他薬局へ行く際にも手帳(電子含む)提示を推奨
⑪ 残薬や服薬状況の把握
⑫ 院内で使用している抗がん剤(スケジュールなども)など併用薬も、確認できたら確認

7. 最後に

かかりつけ薬剤師は、超高齢化社会を迎える日本の地域医療の核になる存在です。

患者さんの病歴や服用歴を把握し、専門家の知識と経験を活かした診察やアドバイスができます。また一人の患者さんに一人のかかりつけ薬剤師がつくことで、医療の正確性も向上し、病気の予防効果も期待できます。

アンケート調査の結果を見ても、患者さんの満足度は非常に高いので、今後更に普及していくと思われます。

本サイトでは、かかりつけ薬剤師に関連した新しい医療の取り組みについて、今後も情報発信していく予定です。

URL
AD リクナビNEXTで理想の職場探し!