2025年の今年は、「団塊の世代」の800万人の方が75歳以上になります。後期高齢者の方が大量に生まれ、多方面に多大な影響が生じると予想されています。しかも2060年には、65歳以上の人口が全体の40%近くになると予測されています。
この超高齢化社会化現象は、当然医療にも大きな影響があります。特にこれから大きく広がると予想されるのが、在宅医療です。しかもその役割は、調剤や医薬品の供給だけでなく、副作用のモニタリングまで多岐に渡ります。
そこで本記事では、訪問薬剤師の具体的な役割を詳しく解説します。ぜひ、参考にしてください。
Contents
1. 訪問薬剤師とは
訪問薬剤師とは、薬剤師が患者さんの自宅や介護施設などを訪問し、薬の管理や服薬指導を行うサービスを提供する医療専門職です。特に高齢者や通院が困難な患者さんにとっては、適切な薬物療法を継続する重要なサポートとなります。また訪問薬剤師は、医師や看護師、ケアマネジャーなどの他職種と連携し、患者さんの健康状態の維持・改善を目指します。
2. 訪問薬剤師の役割について
2-1. 服薬状況の確認
患者さんの現在の服薬状況を確認します。具体的には、「薬の飲み忘れ」「過剰服薬」「誤薬の防止」などがあります。また「薬の副作用」「相互作用」、食前・食後などの薬の飲み方も再確認します。
2-2. 服薬指導
服薬指導では、「薬の効果」や「副作用」について説明します。また粉砕やゼリーなど、薬をこれ医者飲みやすくする工夫についてもサポートします。例えば高齢者の方は飲み忘れも発生しやすいので、「服薬カレンダー」や「お薬ボックス」の活用方法も提案します。
2-3. 薬の管理・整理
飲み残した薬や古い薬を確認し、整理します。また複数の薬を一つの袋にまとめて飲みやすくする「一包化」の提案も行います。必要な場合、「服薬スケジュール表」の作成も行います。
2-4. 医療・介護チームとの連携
医師や看護師、ケアマネジャーと、患者さんの情報を共有します。また必要に応じて、処方変更の提案も行います。
3. 訪問薬剤師の訪問の流れ
3-1. 患者さん宅への訪問日時の調整
訪問の依頼を受けたら、「患者さんの基本情報」「訪問理由」「主治医の連絡先」「ご家族の同意の有無」「介護保険認定の有無」等を確認します。事前に訪問用のチェックシートを用意しておくと便利です。医師やケアマネジャーと相談し、患者さんの自宅を訪問する日時を決定します。
3-2. 初回訪問でのヒアリングポイント
初回訪問では、患者さんの既往歴やアレルギー歴、現在の服薬状況などを確認します。ただし在宅の患者さんやご家族にとって、「薬剤師は薬を持って来てくれる人」という認識はまだまだ強い傾向があります。
そのため、薬剤師を医療人として患者・家族に受け入れてもらうためには、初回訪問時に、「お顔を見させて頂いていいでしょうか」「ご本人と直接お話をさせてください」とご家族に話し、家に上がってベッドサイドに行く必要があります。そういった関係性を築くためには、「何かあれば24時間いつでもかけつけます」という責任感を感じてもらう必要があります。
3-3. 服薬指導・薬の管理
実際の薬の確認や指導を実施します。また患者さんんのご家族や介護者の方への説明も行います。
3-4. 報告書の作成
医療保険の場合は医師に、介護保険の場合は医師とケアマネジャーに報告が必要になります。報告書には、指定のフォーマットはありません。効率的な手法としては、薬歴システムを活用した報告書の作成があります。また必要に応じて、処方提案を行います。
3-5. 定期的なフォローアップ
患者さんの状況に応じて、継続的に訪問し、薬の調整や指導を行います。
4. 訪問薬剤師を利用するメリット
4-1. 服薬ミスの防止
薬の飲み忘れや重複服用を防ぎ、正しい服薬をサポートできます。
4-2. 副作用や体調変化の早期発見
患者さんの体の小さな変化にも気づくことができ、医師への迅速な報告が可能になります。
4-3. 家族・介護者の負担軽減
薬の管理をプロに任せられるため、患者さんは安心感を得ることができます。
4-4. 在宅医療の質向上
医療チームとの連携で、患者ごとの最適な治療が可能になります。
5. 費用と利用条件について
5-1. 医療保険適用の場合
医師の指示書が必要になります。
5-2. 介護保険適用の場合
要介護認定を受けた方が対象になります。
5-3. 自己負担の場合
1回あたり数百円〜1,000円程度になります。金額は、保険負担割合によって異なります。
5. 訪問薬剤師のトラブルと対策
訪問薬剤師が直面するトラブル事例を集めました。事前にどんなトラブルがあるかを知っておくことで、冷静に対処できるようになります。ぜひ、参考にして下さい。
5-1. 患者さんや家族とのトラブル
5-1-1. ご家族が訪問を拒否する
まずは、ご家族が訪問を拒否する理由を丁寧にお聞きしましょう。「何かご心配なことやご不安なことがありましたら、お聞かせ頂けますでしょうか?」といった姿勢で聞くことが大切です。
また考えられる原因としては、プライバシーへの配慮や過去の訪問時の不満、訪問薬剤師の必要性の理解不足などがあります。例えばプライバシーへの配慮が原因の場合、訪問時のプライバシー保護について具体的に説明します。また訪問が難しい場合は、電話やオンラインでの服薬指導、薬局での相談など、代替案を提示しましょう。
また、ご家族とのやり取りや対応内容は詳細に記録しましょう。そうすることで、今後の対応や関係機関との情報共有に役立ちます。
5-1-2. 服薬方法を何度説明しても守られない
服薬方法を何度説明しても守られない患者さんへの対応は、薬剤師として非常に難しい問題です。まずすべきは、服薬状況の再確認と原因の特定です。詳細な聞き取りを行い、どこで、どのように、なぜ服薬が守れないのかを具体的に把握します。この時「いつ飲み忘れますか?」「どのような時に飲みにくいと感じますか?」のように、具体的な質問で状況を把握しましょう。
考えられる原因としては、飲み忘れや飲み間違い、服薬時間や回数の誤解、薬の形状や味に対する抵抗感などがあります。また副作用への不安や認知機能の低下、経済的な理由があるかも知れません。原因が特定できたら、具体的な対策を実施しましょう。例えば飲み忘れの場合、服薬カレンダーや服薬ボックスの活用があります。
5-1-3. 患者さんの認知症が進行し服薬管理が困難になった
認知症が進行し服薬管理が困難になった患者さんへの対応は、薬剤師として非常に重要な役割を担います。まずは、患者さんの認知機能の評価を行います。具体的には、MMSE(ミニメンタルステート検査)やHDS-R(長谷川式簡易知能評価スケール)などの認知機能評価ツールを活用します。また患者さんの日常生活動作(ADL)や周辺症状(BPSD)も評価し、服薬管理に影響を与える要因を把握します。同時に服薬状況を確認し、問題点を特定します。
次に服薬管理方法の検討と実施を行います。例えば服薬管理方法の工夫としては、一包化調剤や服薬カレンダーや服薬ボックスの活用などがあります。また薬を飲みやすくするためのゼリーやオブラートの活用も有効です。
ミニメンタルステート検査とは
ミニメンタルステート検査(MMSE:Mini-Mental State Examination)は、認知機能を評価するためのスクリーニングテストです。11の項目で構成されており、「今日の日付」や「曜日」「季節」「年月」「今いる場所の名称」「言葉の復唱」などがあります。点数は30点満点で、点数が低いほど認知機能が低下していると判断されます。
5-1-4. 他の医療機関で処方された薬を勝手に併用
他の医療機関で処方された薬を患者さんが勝手に併用している場合、薬物相互作用や副作用のリスクが高まります。対策としては、まず他の医療機関で処方された薬の名前や用法・用量、処方日数を詳細に把握します。同時に市販薬や健康食品なども含め、患者さんが服用している全ての薬を確認します。
次になぜ他の薬を併用しているのか、症状の改善を期待しているのかを確認します。また併用による体調の変化や、副作用の有無を確認します。特に吐き気やめまい、動悸などの相互作用による症状に注意しましょう。
そして患者さんの併用薬の情報、症状、体調の状況を主治医に伝え、指示を仰ぎます。患者さんへの対応としては、自己判断での併用は危険であることを伝え、中止するように指導します。
5-2. 医療機関・処方医とのトラブル
5-2-1. 医師に処方内容の疑義照会をしたが対応が遅い
医師への疑義照会は、患者さんの安全に関わる重要な業務です。対応が遅れると患者さんを待たせてしまうだけでなく、薬剤師自身の業務も滞ってしまいます。まず疑義照会の内容を再度確認し、緊急度を判断します。次に疑義照会をいつ、どのような方法で行ったのかを記録で確認します。そして担当医師の名前と連絡先を確認します。
そして医師に電話で直接連絡し、疑義照会の状況を確認します。「〇〇の件で、先日疑義照会させて頂きましたが、その後いかがでしょうか?」のように、具体的に内容を伝えましょう。対応が遅れている理由を確認し、今後の対応について相談します。この時担当医師と連絡が取れない場合や、緊急性が高い場合は、他の医師や医療スタッフに相談しましょう。
5-2-2. 処方変更を提案したが医師に拒否されてしまった
医師への処方変更提案が拒否された場合、薬剤師は患者さんの安全と薬物治療の最適化のために、状況に応じて適切な対応を取る必要があります。まずは「先生が処方変更をされない理由について、詳しくお聞かせいただけますでしょうか?」と丁寧に理由を尋ねましょう。
考えられる原因としては、エビデンスの不足や患者さんの病状や既往歴、他の医療機関での治療状況があります。また薬剤の相互作用や副作用のリスク、医師の経験や知識の可能性もあります。
そして 処方変更提案の再検討と根拠の提示を行います。具体的には、医師の拒否理由に関連する情報や最新のガイドラインをもとに処方変更提案を再検討します。また同時に、処方変更の必要性や有効性を示す根拠を、客観的なデータや文献に基づいて提示します。ここでは、患者さんの具体的な症状や検査結果など、具体的な情報を示すことが重要です。また処方変更が難しい場合は、代替案を提示しましょう。
5-3. 施設・ケアマネージャーとのトラブル
5-3-1. 訪問報告書の提出を求められるが書式がバラバラ
訪問報告書の書式がバラバラである状況は、報告書の作成や管理に手間がかかります。また情報共有の効率も低下する可能性があります。対応策としては、まず現在使用されている訪問報告書の書式を収集し、種類と提出先(医師、ケアマネジャー、施設など)を整理します。また各書式の項目や記載内容の違いを比較し、問題点を明確にします。
そして書式がバラバラであることで、情報共有にどのような課題が生じているかを明確にします。この時、報告書に関わる関係者から意見を収集し、書式に関する要望を把握します。また現状の問題点と関係者の意見を踏まえ、統一書式の案を作成します。統一書式には、訪問日時や患者情報、服薬状況、指導内容、連携状況など、必要な項目を網羅しましょう。
最終的に作成した統一書式案を関係者に提示し、意見交換を行います。関係者の意見を反映させながら、合意形成を図ります。その後必要に応じて、統一書式の試用期間を設け、運用上の課題を洗い出すとより効果的です。
5-3-2. 施設の看護師・介護士と役割分担の認識が異なる
まず最初にどのような場面で、どのような認識の違いが生じているのか、具体的な事実を把握します。その次に看護師や介護士、施設長など、関係者全員から意見を聞き、それぞれの認識や考え方を把握します。同時に客観的な情報収集として、施設の業務マニュアルや手順書、過去の記録などを確認します。
次に看護師や介護士、薬剤師が一堂に会し、役割分担について話し合う場を設けます。ここではそれぞれの専門性を理解し、尊重し合うことが大切です。そして施設の実情に合わせて、看護師、介護士、薬剤師の役割分担を明確にし、文書化します。この文書を関係者全員で共有することで、認識の齟齬を防ぎましょう。
5-4. 薬剤管理や服薬指導に関するトラブル
5-4-1. 処方内容が頻繁に変わり混乱する
まず最初に、どのような疾患でどのような薬剤が変更されているのか、具体的な情報を収集します。次に具体的な処方変更の理由(効果不十分、副作用、患者の状態変化など)を医師に確認します。次に患者さんの服薬状況や既往歴、アレルギー歴などを改めて確認します。同時に患者さんや家族が処方変更について理解しているか、医療機関との連絡体制に問題がないかを確認します。
そして処方箋の内容を慎重に確認し、変更点や疑問点があれば医師に疑義照会を行います。その後、処方変更の内容や理由、注意点などを患者さんにわかりやすく説明します。ここで大切なのは、患者さんが安心して服薬できるように疑問や不安に丁寧に対応することです。
5-4-2. 患者さんが薬を紛失し、勝手に他の薬を服用している
患者さんが薬を紛失し、勝手に他の薬を服用している状況は、非常に危険なため、迅速かつ慎重な対応が求められます。まず最初に、紛失した薬の種類と量を確認します。次に勝手に服用している薬の種類と量を確認します。例えば市販薬や以前処方された残薬、家族の薬などを全てチェックしましょう。
次に、いつ、どれくらいの量を服用したのか、また、現在の体調や症状などを確認します。また紛失の経緯や、患者さんの意識レベルと判断能力に問題がないかを確認します。そして患者さんの最新状況を主治医に伝え、指示を仰ぎましょう。患者さんには勝手に服用している薬を、直ちに中止するように伝えます。
6. まとめ
訪問薬剤師は、患者さんの自宅や介護施設などを訪問し、適切な薬の使用方法や副作用の確認、薬の管理方法などについて指導するサービスです。特に高齢者や寝たきりの方、通院が困難な患者さんにとっては重要な役割を果たしています。
患者さんの服薬状況や生活環境の情報共有が重要です。また介護保険と医療保険の併用ルールに注意する必要があります。
「住み慣れた場所で療養したい」という患者さんのニーズを受け、在宅医療の必要性は増加しています。調剤や薬物管理だけでなく、在宅医療での患者さん及びご家族とのコミュニケーションの重要性はさらに増すでしょう。