薬剤師の研究職は、医薬品の開発や評価、安全性の向上に貢献する重要な職種です。また薬学部で学んだ知識が活かせ、生活の質の向上にも貢献できるので人気があります。
製薬メーカーや食品メーカーあどの薬剤師の研究職は倍率も高く、狭き門です。入社するためには、幅広く情報収集し、しっかりと準備する必要があります。本記事では、薬剤師の研究職について詳しく解説します。
Contents
1. 薬剤師の研究職の分野について
薬剤師の研究職は、薬学の専門知識を活用し、医薬品や医療技術の研究開発に携わる仕事です。主な勤務先としては、製薬メーカーや化粧品メーカー、化学メーカー、研究機関や大学、病院などがあります。
また研究職の仕事内容としては、基礎研究や応用研究、臨床開発、安全性研究、製剤研究、薬物動態研究、薬効薬理研究などがあります。
2. 製薬企業の研究職について
2-1. 創薬研究(基礎・前臨床研究)
2-1-1. 仕事内容
新しい薬の候補となる化合物の探索や、作用メカニズムの解明をします。また細胞・動物実験を通じた薬効や安全性の評価や、医薬品ターゲット(標的分子)の探索を行います。
2-1-2. 必要な知識とスキル
創薬研究には、薬理学や分子生物学、化学、免疫学などの専門知識が求められます。また動物実験や細胞培養、ゲノム編集などの技術あ、AIを活用した統計解析技術も必要とされます。
2-2. 製剤・分析研究
2-2-1. 仕事内容
新薬の飲みやすさや吸収性の向上など実現する製剤設計や、有効成分の安定性、品質管理の分析方法の確立を行います。また製造プロセスの開発や最適化を行います。
2-2-2. 必要な知識とスキル
製剤学や分析化学、物理化学などの専門知識や、高速液体クロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー質量分析の技術が求められます。
<高速液体クロマトグラフィー(HPLC)とは>
高速液体クロマトグラフィー(HPLC)は、液体中の成分を分離・分析する技術です。混合物をカラムと呼ばれる筒に通し、成分ごとの移動速度の差を利用して分離します。この技術は、医薬品の品質管理や、食品の栄養成分、残留農薬の分析などに応用されます。
<液体クロマトグラフィー質量分析(LC-MS)とは>
液体クロマトグラフィー質量分析(LC-MS)は、液体クロマトグラフィー(LC)と質量分析(MS)を組み合わせた分析手法です。液体クロマトグラフィー(LC)は、混合物中の成分化学的性質の違いによって分離します。また質量分析(MS)は、分離された成分をイオン化し、その質量電荷比を測定することで成分の同定や定量を行うことができます。
3. 大学の研究職について
3-1. 創薬研究(新薬開発)
大学における薬剤師の研究職の一つに、創薬研究(新薬開発)があります。例えば大学での新薬研究は、基礎研究から医薬候補化合物の創出までを行うアカデミア創薬が主体です。
大学での新薬開発の特徴としては、基礎研究の重視が挙げられます。具体例としては、生命現象のメカニズム解明なっどがあります。また製薬メーカーが手掛けにくい革新的な創薬ターゲットの発見や、新しい作用機序の解明も行います。また薬学だけでなく、医学や理学、工学などの多様な専門分野の研究者との連携し、学術的な研究を行います。
3-2. 臨床薬学研究
大学での臨床薬学研究は、薬学の専門知識を臨床現場に応用し、患者さんの薬物治療の最適化を目指す研究分野です。研究内容は、大きく以下の4つがあります。
3-2-1. 薬物動態・薬力学研究
患者さんの年齢や性別、疾患、遺伝子型などによる薬物吸収や分布、代謝、排泄の変化を解析します。また個々の患者さんに最適な薬物投与設計を行う研究も行います。
3-2-2. 臨床薬物治療研究
いろんな種類の疾患における薬物治療の効果や安全性を評価し、最適な薬物治療法を確立するための研究です。また薬物の相互作用や副作用のリスクを評価し、患者さんの安全性を確保する研究も行います。
3-2-3. 薬剤疫学研究
大規模なデータベースを活用し、医薬品の安全性や有効性を評価する研究です。例えば医薬品の使用状況や医療経済効果を分析し、医療政策に貢献する研究を行います。
<医療用データベースとは>
医療データベースとは、様々な医療機関から集められたビッグデータの統合データベースです。データは「電子カルテ」「オーダリング」「レセプト」等から引用され、患者の主病名、合併症名、性別、年齢のほか、初診日、診療日、主な既往歴なども網羅されています。
3-2-4. 臨床薬剤学研究
医療現場における薬剤師の役割を研究し、より効果的な薬物治療を提供するためのシステムを開発する研究です。具体的には、患者さんへの服薬指導や薬物療法モニタリングの効果を評価したりします。
3-2-5. 個別化医療研究
患者さんの遺伝子情報や臨床情報を活用し、個々の患者さんに最適な薬物治療を提供する研究です。具体的には、バイオマーカーを用いた薬物治療効果の予測や、新しい治療標的の探索を行う研究などを行います。
3-3. 薬剤経済学研究
3-3-1. 医薬品の費用対効果分析
新しい医薬品や医療技術の導入が、医療費や患者さんの健康状態にどのような影響を与えるかを評価します。また費用対効果分析の結果データは、医薬品の価格設定や保険償還の意思決定に活用されます。
3-3-2. 医療技術評価
医薬品だけでなく、医療機器や診断技術など、様々な医療技術の経済性を評価します。また医療技術評価は、医療リソースの最適な配分を考える上で、重要な判断材料を提供します。
3-3-3. 医療経済モデル分析
コンピューターシミュレーションを用いて、医療政策の変更が医療費や患者さんの健康状態に与える影響を予測します。また医療経済モデル分析は、政策立案者が意思決定を行うための支援ツールになります。
3-4. 基礎薬学研究
3-4-1. 薬化学
薬効を示す化合物の構造や性質を解析し、より効果の高い化合物を合成する研究です。例えば化合物の作用機序を解明し、新しい治療標的を探索します。
3-4-2. 薬理学
薬物が生物に与える影響を解析し、薬効や副作用の発現機構を解明する研究です。例えば疾患モデル動物を用いて、薬物の有効性や安全性を評価します。
3-4-3. 生化学
生体内の分子機構を解析し、薬物の作用標的となる分子を探索する研究です。例えば遺伝子やタンパク質の機能を解析し、新しい治療法を開発します。
3-4-4. 製剤学
薬物の吸収や分布、代謝、排泄を制御する製剤技術を開発する研究です。例えば遺伝子やタンパク質の機能を解析し、新しい治療法を開発します。
3-4-5. 衛生薬学
有害物質が人体に与える影響を解析し、予防対策を研究します。有害物質には、ニコチン、タール、一酸化炭素などがあります。また医薬品や食品添加物の安全性評価も行います。
3-4-6. 天然物化学
天然資源から薬効成分を探索し、新しい医薬品を開発する研究です。天然物の化学構造や生物活性を解明します。
4. 公的機関での薬剤師の研究職について
4-1. 薬剤師が研究職として働く公的機関
薬剤師が活躍する公的機関としては、国立研究機関や地方衛生研究所、厚生労働省、PMDA、大学、公的病院の研究部門などがあります。
<PMDAとは>
PMDAとは、独立行政法人 医薬品医療機器総合機構です。PMDAでは、承認審査業務や安全対策業務、健康被害救済業務、レギュラトリーサイエンス、基準作成調査、国際関係業務などを行っています。
4-2. 仕事内容
4-2-1. 医薬品・ワクチンの研究開発
新しい医薬品やワクチンの開発を行います。また既存医薬品の有効性や安全性の評価、臨床試験の計画やデータ解析を行います。
4-2-2. 医薬品の品質管理・試験
市販薬やジェネリック医薬品の品質調査、不純物や異物混入の検査を行います。またGMP(適正製造基準)やGLP(適正試験実施基準)の遵守確認を行います。
4-2-3. 感染症や公衆衛生に関する研究
ウイルスや細菌の検査と分析、抗菌薬耐性菌の監視などを行います。また食品や環境中の有害物質の研究を行います。
4-2-4. 医薬品の安全性監視(ファーマコビジランス)
副作用情報の収集・解析や、医薬品回収や安全対策の検討を行います。また患者さんや医療機関向けの情報提供も行います。
4-2-5. 法規制・政策立案の支援
医薬品や化学物質の規制基準の策定や、国内外の医薬品規制に関する調査を行います。また厚生労働省やPMDAと連携した審査や承認業務を行います。
4-3. 求められる資格・スキル
公的機関での研究職では、薬剤師免許だけでなく、薬学や化学、生物学、統計学などの専門知識が求められます。また細胞培養の実験や分析技術、論文作成力や英語力が求められます。
5. 薬学部卒業後に研究職に就くには
5-1. 研究室には4つの分野がある
薬学部の研究領域は、大きく「生物系」「化学系」「物理化学・分析系」「臨床系」の4つがあります。例えば学生さんの希望が偏った場合の振り分けは、基本的に成績順になります。そのため、普段の成績はとても重要です。
例えば生物系の研究室では、マウスや細胞を用いて薬物が生体内でどのように変化するかを調べたりします。また化学系の研究室の場合、有機化合物について研究をします。
5-2. 自分に合う研究室選びのポイント
やはり一番大切なのは、「いかに自分熱中して研究できるか」です。例えば各分野の実習をした際、一番ワクワクした経験を参考にしましょう。また教授との相性重要です。例えば「話しやすさ」や「相談のしやすさ」、「研究実績」「人脈」「政治力」もチェックポイントです。
指導力や政治力については、学会受賞歴や博士課程における学生の日本学術振興会特別研究員の在籍数が参考になります。その他に、研究室の雰囲気、研究の自由度といったポイントも検討材料になります。
5-3. 就職を有利にするには研究実績を作る
製薬メーカーにしろ化学メーカーにしろ、研究職として採用されるためには、研究室での研究成果が大切です。具体的には、「研究論文本数」「学会での発表経験」「学会受賞経験」などがあります。
<オンラインで研究論文を探す方法>
近年は、インターネットで論文を探すことができます。大まかに「論文検索サイト」と「図書館所蔵資料サイト」の2種類があります。論文検索サイトには、「Google Scholar」「CiNii Articles」「J-STAGE」「学術機関リポジトリ」などがあります。また図書館所蔵資料サイトには、「CiNii Books」「国立国会図書館サーチ」「カーリル」などがあります。
6. 薬学部卒の研究職の年収について
例えば薬学部卒業後、製薬メーカーの研究職に就いた場合の年収はどのぐらいでしょうか。平均年収は20代で約400万円、30代で約550万円といわれています。全職種の平均年収が20代で約350万円、30代で約440万円なので、比較的恵まれているといえるでしょう。この理由としては、高い専門性と倫理性が求められる職種であることが要因と考えられます。
7. まとめ
薬剤師の研究職は、薬学の専門性が活かせ、治療や新薬開発を通じた社会貢献度が高いのが大きな特徴です。また製薬メーカーや化学メーカーといった民間企業だけでなく、大学や公的機関などキャリアの幅が広いというメリットもあります。
一方研修職に就くためには、博士号が必要なケースが多く、アピールできる研究実績が必要です。また実験や執筆で忙しくなる可能性もあります。
仕事が人生に占める時間は、非常に大きいです。それだけに自分の専門性を存分に発揮できる専門職に就くことは、簡単ではありませんが、挑戦しがいがあるといえるでしょう。本記事が、少しでも参考になれば幸いです。