服薬指導は、患者さんに対して処方薬の種類や効果、副作用などを説明することです。この業務は薬剤師法で義務として定められており、必ず行う必要があります。
指導という名前からは、薬剤師から一方的に説明するイメージがあるかも知れません。しかし服薬指導は、患者さんとの双方向コミュニケーションが大切です。
患者さんにお薬を正しく使ってもらうだけでなく、患者さんの服薬状況や健康状態を把握します。そのためには、患者さんが心を開き、正直に悩みを話してくれる会話も重要です。
本記事では、服薬指導について詳しく解説します。
Contents
1. 服薬指導とは
ここでは服薬指導のポイントについて解説します。
1-1. 服薬指導で必要なもの
薬剤師が服薬指導を行うためには、患者さんに処方箋とお薬手帳を提出してもらいます。例えば処方箋をもとに、患者さんの治療にふさわしいお薬を用意します。このとき「この内容は治療に適していないのでは」と薬剤師が判断した場合、医師に直接連絡することがあります。
またお薬手帳は、その内容から患者さんのお薬アレルギーや副作用歴を確認します。
1-2. 薬の説明項目や目的と効果
お薬がどのような症状や病気に効くのか、治療の目的を説明します。そうすることで患者さんは薬を飲む理由を理解し、治療への意識が高まります。
・お薬の名前
・お薬の効果
・服用量
・服用回数
・服用時間
・保管方法
・飲み合わせや副作用時の対処法
1-3. 服用方法と服用タイミングの説明
例えば「食後に服用」や「1日2回」のように用法・用量や、飲み合わせなどの服用時の注意点について、説明されます。特に飲み忘れた場合の対処法なども、服薬指導に含まれます。
1-4. 副作用の説明と対応方法
薬を服用するとどのような副作用が起こり得るのか、また副作用が出た場合の対応についても、説明します。例えば「眠気が生じることがあるので車の運転は避ける」などは、具体的な指示の一例です。
1-5. 保管方法
服薬指導では、薬の保存に関する指示も含まれます。例えば「このお薬は高温や湿気を避けて保管してください」というものがあります。このようにお薬の保管方法を伝えることで、効果が損なわれるのを防ぎます。
1-6. 患者さんの生活習慣に関するアドバイス
生活習慣が、薬の効果に影響を与えることがあります。そのため患者さんの日頃の食事や、生活習慣に関しても指導が行われることがあります。特にアルコールやタバコの摂取についてのアドバイスなどが含まれることがあります。
1-7. 飲み合わせの確認について
服薬指導は、患者さんが薬を安全に使用し、治療効果を最大化するためにとても重要です。患者さんが薬の飲み方や副作用について正しく理解することで、効果的な治療が促進され、薬剤に関する不安も軽減されます。
特に高齢者や多剤服用者の方の場合、飲み合わせや飲み忘れが問題になることが多く、より服薬指導が重要になります。
2. 薬剤師のヒアリングの重要性
患者さんは、薬物療法に対して様々な不安を抱えています。現在の病気を治療するためのお薬の説明だけでなく、そういった不安を取り除いてあげるコミュニケーションは非常に重要です。
理想の服薬指導は、健康を実現するために、患者さんとお互い信頼関係を築くことです。その上で患者さんの病状だけでなく、生活習慣にも興味を持ち、薬物療法の効果だけでなく、根本的な解決に向けて提案できることです。
例えば、「一日の食事回数」や「時間帯」、「コーヒーや炭酸飲料の頻度」「運動量」といった生活スタイルをヒアリングし、把握します。その生活スタイルの改善も合わせた服薬を継続できるように、サポートすることが重要です。
患者さんの立場からすると、自分のことを理解してくれ、生活スタイルを尊重してくれる薬剤師は共感できます。そして改善すべきところを変え、薬物療法と両立する落とし所に導いてくれる薬剤師は、安心できる心強い存在です。
3. 服薬指導の流れ
3-1. お声がけをする
患者さんのお名前をお呼びし、投薬台へ誘導します。「薬剤師の〇〇です。本日は宜しくお願いします」と、最初にまず自分の名前を名乗り、挨拶をしてから服薬指導を始めましょう。
円滑にコミュニケーションを進めるために、患者さんの方に体を向けます。またアイコンタクトを取りながら、笑顔で会話をするように心がけましょう。
体調の悪い方や足の悪い方の場合、座席までお薬をお持ちして服薬指導をすることもあります。そういったイレギュラー対応のやり方は、薬局によって異なります。
3-2. 病状をヒアリングする
現在の患者さんの状況を正確に把握し、適正な服薬指導を行うために、病状をヒアリングします。初回来院の場合、処方箋が適切か評価する必要があります。そのため、質問票で様々な内容をヒアリングします。一方通院されている患者さんには、前回からの経過状況や副作用状況をヒアリングします。
具体的なヒアリング項目例を、以下に記します。
服薬指導のヒアリング項目例
① 治療中の疾患名
② 現在の症状について
③ アレルギー・既往症の有無
④ 現在服薬中のお薬名やサプリメント名
⑤ 過去に体質に合わなかったお薬の名前
⑥ 喫煙の有無
⑦ 飲酒の有無
万が一患者さんの症状や体調に変化があったら、薬剤師はその事態を改善する服薬指導を実施する必要があります。そのためには、患者さんからの細かいヒアリング情報がとても大切です。
3-3. 医薬品を説明する
ヒアリングが終わると、次に行うのが処方薬の説明です。薬剤師は、病気に悩む患者さんが正しく服用できるようにわかりやすく解説する必要があります。
うまくコミュニケーションが取れない場合、「手帳への書き込み」や「指導箋」を活用しましょう。
お薬は、「薬袋(やくたい)」と呼ばれる袋に入れて、患者さんにお渡しします。また「薬剤情報提供書」「調剤報酬明細書」「領収書」「お薬手帳」をお渡しします。
3-4. 質問や疑問点の確認
服薬指導の目的は、患者さんが内容を理解し、薬剤師の説明通りに行動し、健康になることです。指導内容に対し、少しでも不安や疑問があると、適正な薬物治療を実現できません。
そのためには、丁寧で本人が納得できるわかりやすい説明が必要不可欠です。また場合によっては、「副作用の対策方法」「緊急時の連絡方法」を伝えておきましょう。
3-5. クロージング
患者さんの質問がなさそうであれば、クロージングを行います。クロージングとは、服薬指導を締めくくり患者さんを見送ることです。
この最後のクロージングは、対応した薬剤師の印象を決める重要な要素の一つです。丁寧に見送ることで、患者さんとの信頼関係が得られ、より良い服薬指導に繋がります。
4. 現在の日本における服薬指導の課題
最近の日本では、高齢化社会の影響で慢性疾患を抱える患者が増えています。また多剤処方が一般的になっています。このため薬剤師が提供する服薬指導は、単なる薬の説明にとどまらず、患者さんの生活や状態に合った服薬支援を提供する必要性が高まっています。
また、オンライン服薬指導の導入が進む一方で、対面指導で得られる細やかなコミュニケーションをどう補うかも課題とされています。
服薬指導は患者と薬剤師の信頼関係を築き、患者さんが安心して治療を受けられるための重要なプロセスです。そのクオリティをどう向上していくかは、日本の高齢者医療の重要なテーマです。
5. まとめ
服薬指導は、患者さんを健康に導く薬剤師の重要な業務の一つです。
特に大切なのは、お薬の正しい使い方の説明だけでなく、患者の生活環境にも興味を持ち、良好なコミュニケーション関係を築くことです。服薬指導で役立つ会話の方法については、『服薬指導の会話例とは?患者さんに分かりやすく伝える実例を解説』で詳しく解説しています。こちらも参照ください。
そして健康の体を作るために、薬物療法の効果の最大化のためにどうすべきかをキャッチボールできるかどうかが大事です。
そういう意味では、薬剤師の服薬指導は「モノからヒトへ」という薬局業界のDX推進の中心業務の一つといえます。正確な調剤業務と同じぐらい重要な、対人コンサルティング業務といえるでしょう。