調剤とは、病院の医師の診断を経た処方箋に基づいて、薬剤師が調剤したお薬を受け渡すことです。ご存知の通り、日本では超高齢化社会が大きな医療負担を生んでいます。そのため、医療費削減施策として、薬剤価格の引き下げや調剤報酬の減額が進められています。
実は日本の薬局の数は、アメリカより多いといわれています。そんな調剤薬局の経営環境が年々厳しくなる中、生き残るためにはどうしたらいいのでしょうか。また、今後の調剤はどう変わるのでしょうか。
令和4年度の調剤報酬改定では、対人業務の評価拡充や在宅業務の推進等が実施されました。
本記事では、調剤の現状や課題、調剤報酬改定のポイントについて解説します。
Contents
1. 調剤薬局について
調剤薬局とは、病院や診療所の医師の処方箋の指示に基づいて、薬を調剤して受け渡す薬局のことです。また調剤薬局は、大きく門前・門内薬局とかかりつけ薬局に分かれます。
1-1. 門前・門内薬局について
門前・門内薬局は、特定の医療機関の処方箋に対応する点分業形態です。この点分業形態とは、特定の医療機関の処方箋しか受け付けない営業形態のことです。点分業は、全体の75%を占めています。
門前薬局は、医療機関の近くの場所、文字通り「門前」に開設されてきました。また2016年の規制緩和で、医療機関の敷地内に「門内薬局」も開設されるようになりました。門前・門内薬局は、患者さんにとって医療機関で受診した後にすぐに薬を受け取れる利便性があります。また薬局側も、診療科が決まっているので、薬の在庫管理がしやすいメリットがあります。
門前・門内薬局は、対応する医療機関によって、以下の3つに分類されます。
1-1-1. クリニック
約半数の調剤薬局は、クリニックの近くにあります。クリニックの診療科は限定されるため、門前薬局の専門性も高くなる傾向があります。またクリニックの診療時間に合わせて開局する必要があります。
1-1-2. 総合病院
総合病院のそばの調剤薬局は、総合病院の特性上、幅広い診療科に対する知識が必要です。また一日あたりの処方箋の数も多く、効率的な調剤業務が要求されます。
1-1-3. 医療モール
異なる診療科の複数のクリニックが集まった医療モール(ビル)にも、調剤薬局は開設されています。例えば、患者さんが複数の診療科にかかっていても、医療モール内のクリニックの場合、過去の薬歴等を把握しやすいメリットがあります。
1-2. かかりつけ薬局について
1-2-1. かかりつけ薬局とは
かかりつけ薬局は、門前・門内薬局のように医療機関を限定しません。広く対応する面分業形態の調剤薬局です。かかりつけ薬局は、患者さんの情報の一元管理ができることから、以下のようなメリットがあります。
かかりつけ薬局のメリット
① 普段から健康に関して何でも相談できる
② 使用する薬を一つの薬局でまとめて管理できる
③ 異なる医療機関での薬の重複を避けることができる
④ 薬の相互作用を防止できる
⑤ 市販薬や健康食品の相談もできる
⑥ 介護関連商品の相談もできる
⑦ 必要に応じて、他の医療機関を紹介してもらえる
1-2-2. 面分業形態とは
面分業形態とは、不特定多数の医療機関の処方箋を受け付ける運営形態のことです。ドラッグストア併設の調剤薬局に代表される面分業は、全体の25%を占めています。
1-3. 保険調剤薬局とは
保険調剤薬局(保険薬局)は、保険指定を受け、保険証が使える薬局です。また薬剤師は、健康保険法に基づく療養の給付の一環として、保険調剤業務を取り扱います。薬局との違いを、以下に記します。
薬局 | 保険調剤薬局 | |
根拠となる法律 | 薬機法 | 健康保険法 |
開設許可 | 都道府県知事 | 厚生労働大臣 |
常駐薬剤師 | 薬剤師 | 保険薬剤師 |
業務内容 | 薬の調剤・服薬指導・情報提供 | 療養の給付(保険調剤) |
1-4. 調剤薬局なら処方箋はどこでも大丈夫?
お薬を扱うお店には、薬局と薬店の2種類があります。そして調剤室があり、薬剤師が常駐しているのが薬局です。例えば、「保険調剤」「処方箋受付」「保険薬局」という表示の薬局であれば、どこの薬局でも調剤してもらえます。
「調剤事務って何しているの?1日に密着!!」、「【薬剤師】薬局業務~調剤編~」、「【令和6年/2024年度調剤報酬改定】ハイリスク薬の特定薬剤管理指導加算1の変更点を解説」、「特定薬剤管理指導加算3について、よくある質問へ答えます!」、「【2024年調剤報酬改定】調剤基本料」、「【令和6年/2024年度調剤報酬改定】調剤管理料に関連する見直しを解説」
2. 調剤薬局の仕事の流れ
2-1. 処方箋の受付
患者さんから、「処方箋」「保険証」「お薬手帳」を預かります。また本人のアレルギーや副作用などを把握するために、アンケートを依頼します。
2-2. 処方箋監査・疑義照会
処方箋監査(処方箋鑑査)とは、医師が作成した処方箋の内容を精査する、薬剤師法によって定められた調剤業務の一環です。例えば処方箋鑑査では、「処方箋の記載事項に漏れ・間違いがないか」「処方内容が患者にとって適切か(禁忌や重複投与がないか)」の2点を確認します。
また疑義照会とは、薬剤師が薬剤名や用量等の処方箋の内容について、発行した医師に問い合わせることです。
2-3. 薬の調剤
薬の調剤とは、処方箋に基づいて医薬品をそろえ、患者さんに交付する業務のことです。基本的には、薬剤師の独占業務です。ただし、医師・歯科医師・獣医師は、自ら処方した処方箋に限り、調剤を行うことができます。
2-4. 最終監査
最終監査とは、調剤が終わった医薬品の最終確認を行い、正しい医薬品が調剤されているかどうかを精査します。また、患者さんの過去の薬歴を照会し、処方箋の内容の最終確認も行います。
2-5. 服薬指導
服薬指導とは、薬剤師が患者さんにお薬の正しい使い方について、丁寧に説明を行うことです。お薬は正しく使われてこそ、初めて有効なものになります。また服薬指導はお薬だけでなく、一般用医薬品に対しても実施されます。
2-6. 薬歴管理
薬歴管理とは、患者さん個人の薬物治療に関する情報を集約し、薬剤師が一元管理したものです。これは、医薬品を適正に運用し、安全性と有効性を確保するためには、必要不可欠なものです。
2-7. 一包化について
2-7-1. 一包化とは
一包化とは、用法が同じお薬を一つの袋にまとめる調剤方法のことです。必要に応じて一包化することで、飲み忘れや飲みすぎを防ぐことができます。また吸湿性が高いお薬や、遮光を必要とするものなど、一包化ができないものもあります。
2-7-2. 一包化の条件について
一包化を行う場合、処方医の了解を得て「外来服薬支援料2」(一包化加算)を算定することができます。その場合、下記のように算定要件と点数が、内服薬の投与日数に応じて変わってきます。
投与日数 | 所定点数 |
1~7日 | 34点 |
8~14日 | 68点 |
15~21日 | 102点 |
22~28日 | 136点 |
29~35日 | 170点 |
36~42日 | 204点 |
43日以上 | 240点 |
3. 調剤報酬について
3-1. 調剤医療費の推移
令和2年度(2020年)の概算医療費は、約42.2兆円でした。そのうち調剤医療費は約7.5兆円で、その内訳は薬剤費が約5.6兆円、技術料が約1.9兆円です。
10年前の平成22年度(2010年)の医療費の総額は、約36.6兆円です。つまり10年間で日本の医療費は、15.3%上がっていることになります。
3-2. 調剤報酬の体系について
以下に現在の調剤報酬の体系について、記します。2022年の調剤報酬改定とともに、薬剤調製料が新設されました。
3-2-1. 調剤技術料
① 調剤基本料…医薬品の備蓄(廃棄、損耗も含む)、建物、調剤用機器等の体制整備に関する経費
※加算料/地域支援体制加算、後発医薬品調剤体制加算
② 調剤料…処方内容の確認、医師への問い合わせ(疑義照会含む)、薬剤調製、調剤録の作成・保存等の業務に係る技術料
※加算料/一包化加算、自家製剤加算、計量混合調剤加算など
③ 薬剤料…医薬品の価格を点数にしたもの
④ 特定保険医療材料…医療機器や在宅で使う衛生材料のうち、医療機関が定める処置料とは別に算定できる医療材料
3-2-2. 薬剤管理科
① 薬剤服用歴管理指導料…薬剤師が患者へ薬を渡す際に、飲み合わせなど安全に服用できるようにする
※加算料…麻薬指導加算、重複投薬・相互作用等防止加算等
② かかりつけ薬剤師指導料…患者が選択した保険薬剤師が、患者に対して服薬指導等を行った場合に算定できる指導料
※加算料…麻薬指導加算、重複投薬・相互作用等防止加算等
③ 服薬情報等提供料…薬剤師が、医師や患者さんに情報提供した際に算定できる薬学管理科のこと
3-3. 薬の種類別の算定要件と点数について
内服薬、屯服薬、浸煎薬、湯薬、注射薬、外用薬、内服用滴剤における薬剤調製料の算定要件と点数を、以下に記します。
算定要件 | 点数 | |
内服薬 | 1剤につき、3剤分まで | 24点 |
屯服薬 | 21点 | |
湯煎薬 | 1調剤につき、3調剤分まで | 190点 |
湯薬 | 1調剤につき、3調剤分まで | 7日分以下/190点、8~28日分/120点+1日分につき10点、29日分以上400点 |
注射薬 | 26点 | |
外用薬 | 1調剤につき、3調剤分まで | 10点 |
内服用滴剤 | 1調剤につき | 10点 |
4. 調剤薬局の収益改善について
4-1. 売上の方程式とは
「自分の薬局の売上げが減ってきて不安」という声が、薬局経営者の方からよくお聞きします。ただその売上減少の原因を、明確に把握されている方は少数です。原因を正確に把握することが、問題解決には必要不可欠です。
調剤薬局の売上げは、以下の方程式になります。
■ 調剤薬局の売上=処方箋単価✕処方箋枚数
ここでの処方箋枚数は、小売業でいう延べ客数に該当します。このそれぞれの数字は、薬局経営の代表的なKPI(重要業績評価指標)として、経営陣やマネージャー、現場の方々で共有されている薬局も多いと思います。
保険調剤薬局において処方箋単価は、調剤報酬分類で整理できます。大カテゴリーとしては、上の図のように「薬学管理料」「調剤技術料」「薬剤料」「特定保険医療材料」に分類できます。
そして一番重要なのが、「自助努力によって数字を上げることができるのはどの要素か」ということです。例えば、「薬剤料」は医師が指示する処方箋によって、ほぼ決まっています。しかし、「薬学管理料」は薬剤師の行動で算定可否を決定できます。また「調剤料」も売上向上の余地があります。
4-3. 変動要素を改善する
「薬歴管理料」「かかりつけ」「支援・指導料」「調剤基本料」を精査し、改善することで売上を向上させます。例えば令和4年の調剤報酬改定で、新たに「調剤管理料」が設定され、重複投薬・相互作用防止などが加算料に付加されました。こうした変動要素は、売上改善のポイントになります。
5. まとめ
調剤は、大きな転機を迎えているといっていいでしょう。
従来の受けの姿勢から、体質を改善し、攻めの姿勢に変換することが求められています。そのためには、生き残り戦略として、現在の課題を整理し、解決策を実施しながら、独自性を出していく必要があります。
薬局経営については、『薬局経営で利益を上げるには?年収を上げる具体的手法も解説します』でも解説しています。
顧客に支持される調剤薬局のモデルケースには、どんなものがあるのか。
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